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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)65号 判決

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

(一)  本間鹿蔵が、被控訴人となり、本訴を受継したことについては、異議がある。本訴の趣旨は、第一審原告田村栄次郎個人が、訴外丸小新鉄青果株式会社(以下訴外会社という)に対し、金員を貸し付け、控訴人においてその保証をしたから、右保証債務の履行を求めるというのであつて、原審もこの請求を認容したのである。それならば、田村栄次郎の死亡によつて中断した訴訟手続は、その相続人だけが受継し得るのであつて、相続人でない本間鹿蔵は、その受継する何等の事由も権限もないから、本訴受継の申立は不適法として却下さるべきである。

(二)  右のように、第一審においては、田村栄次郎個人の貸し付けにかかるものとして、請求しながら、当審において、辰巳講が貸し付けたと主張するのは、訴の変更として、許さるべきではない。

(三)  被控訴人の主宰する辰巳講は、数組に分れ、一個月内に数回執り行われるなど、その外形からみると、殆んど営業としてするものとかわりはない。かかる形態の無尽は無尽業法適用の対象となるから、同法による免許を受けていない本件無尽講は違法である。

(四)  前項の違法が、本件貸借の私法上の効力に影響を及ぼさないとしても、本件無尽講においては、捨金なるものが多額に過ぎる。そのため、落札によつて、講から現実に受領する金額(給付金)と、講に対し掛戻すべき金額(講に差し入れる借用証書面の借入額)との差額(捨金の額に相当する)を利息として、計算すれば、右給付金に対し、講に支払う利息の割合は、月五分ないし一割で、年一二割に達するものがある。かかる講契約は、名を無尽に藉りて利息制限法の適用を免れることを目的とする脱法行為である。のみならず、かような高利は、公序良俗にも違反し、無効といわねばならない。

(五)  本件の金員貸付は、昭和二四年七月一日から同年八月二四日まで前後九回にわたつて、なされたものであるが、主債務者である訴外会社の資本金が僅かに二五万円であることや、その代表者三浦利市の性格を知るならば、かような多額の金員貸付の不当なことは明かであるから、被控訴人には重大な過失がある。

(六)  控訴人が、訴外会社の債務を保証したとしても、当時控訴人は、未成年者であつて、このことを被控訴人等は何等調査しなかつたのは、債権者として過失あるものというべく、かかる過失あるにかかわらず保証人にその責任を転嫁するが如きは、公序良俗に反する。

(七)  控訴人の母小林チヨが、親権者として、右控訴人の保証行為をなすことに同意を与えたとしても、その同意は、被控訴人等が、チヨの軽卒で、かつ、無経験を利用した行為によるものであるから無効である。当時チヨは、夫に死別し(その日時は、昭和二三年一〇月一〇日)五人の子供を残され、途方に暮れていた折柄、訴外会社代表者三浦利市の誘惑に陥り、本件無尽掛戻債務の保証に同意を与えたのである。普通の人間ならば、その当時の訴外会社の営業状態や、右三浦の行動を考えると、金八一二万円余(本件とは別に、チヨは、三浦にだまされて、佐竹某に金一〇〇万円を貸与し、まだ全然回収できないものもある)に達する債務の保証をするが如きことはない筈であつて、それは、チヨが無経験からきた軽卒な行為であるから無効である。

と述べ、被控訴代理人において、第一審原告田村栄次郎は、昭和二六年三月一五日死亡し、本件訴訟手続は第一審判決の送達によつて、中断したので、本件辰巳講の役員である本間鹿蔵において、本訴を受継すると申し立て、控訴代理人が、当審において主張する。

(一)について、この点に関する控訴代理人の主張を否認する。右田村栄次郎が提起した本訴においては、同人個人の貸金債権の履行を求めるものではなく、辰巳講の講元として、講から与えられた権限に基き掛戻金の請求をするものである。そして、右辰巳講の講則によれば、講元のほかに、役員二名が選任され、これ等のものにおいて、講務一切を掌理することになつており、本間鹿蔵は、辰巳講の成立と同時に右役員に選任されたのであるから、講元田村栄次郎の死亡により右本間鹿蔵が本訴を受継するについて何等の違法はない。

(二)について、本訴は、辰巳講の管理者が、その資格において、掛戻金の履行を求めるもので、そのことは、訴状の記載、原判決事実摘示によつて明かで、第一、二審を通じかわりはない。ただ前記のように講管理者の死亡により訴訟担当者の交替があつたに過ぎない。従つて、訴の変更であるとする主張は、失当である。

(三)について、本件無尽講は、従来認められてきたものと何等異なるところなく、被控訴人等においてこれを業とするものではないから、無尽業法の適用を受けるものであるとの主張は容れられない。

(四)について、この点に関する控訴代理人の見解は、独断である。

(五)及び(六)について、本件はむしろ、控訴人等を信用してなされた取引であつて、控訴人側から法律行為の無効を主張することは筋違いである。

(七)について、控訴人の親権者であつたチヨは、相当の家庭に生まれ、教養あり、世故にも通じ、訴外会社の役員として、会社経営に参加し、相当の業蹟を挙げたものであるから、控訴人のいうような軽卒、無経験者ではなく、むしろ、それとは反対の人物である。仮りにそうでないとしても、このことから、直ちに、チヨの与えた同意を無効と断定することはできない。

と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

<立法省略>

三、理  由

当裁判所は、原審が事実認定の資料に供した各証拠と当審証人小日向保多良、同三浦利市の各証言、当審における被控訴本人の供述を綜合して、原審と同一の事実認定をするものである。乙第六号証の記載並びに当審における控訴本人の供述中右認定と相容れない部分は、右小日向、三浦両証人の証言、被控訴本人の供述に照し、信用し難く、控訴代理人の当審において援用するその余の証拠によつては、右認定を動かさない。よつて、控訴代理人の当審における(一)ないし(七)の主張について、以下順次判断する。

(一)について、(い)第一審原告田村栄次郎が、昭和二六年三月一五日死亡したことは、記録編綴の除籍謄本(昭和二七年三月一二日付新潟市長村田三郎認証のもの)によつて明かである。本訴は、右田村栄次郎が、第三、四、六、八、九、一〇辰巳講の講元の資格において、同講の講員である訴外会社が落札したことにより負担するにいたつた掛戻債務につき、同訴外会社と連帯責任を負う控訴人に対し、その履行を求めるものであることは、訴状並びに準備書面(原審及び当審に提出されたもの)の記載、その他弁論の全趣旨に照し、疑いのないところである。

(ろ)そして、原審証人本間鹿蔵(第一、二回)の証言によつて、全部真正に成立したことが認められる甲第一号証の一ないし六、同第二号証の一ないし九と、右証言及び原審証人小林静、同小日向保多良の各証言当審における被控訴本人の供述、並びに冒頭認定の事実によれば、右辰巳講は、いずれも、前記田村栄次郎を援助し、合せて講員相互の金融と親睦とを図る目的で、右田村栄次郎を講元とし、総口数二〇口(ただし、第一〇辰巳講だけは、二四口)をもつて、組織され、一口の掛金三、〇〇〇円、定期にその持口に応じた金員を掛け込ませ、各掛込者に対しては、順次入札と口競の方法により落札者を定め、予定の給付金を交付する定めになつており、かつ、講員相互間においても、講関係から生ずる権利義務を有するものであることが認定されるから、本件無尽講は、組合類似の性格を有するものと解せられるのである。

(は)そのほか、右と同一の資料から、本件辰巳講においては、講員全員の合意で、講元に対し、講務一切を委託し、掛金はもとより掛戻金の取立をも講元の名において行使し得る権能を与えたこと、及び、講員の内から二名ないし三名を世話人として選任し、講元に差支あるとき、その他必要に応じ、世話人に講掛金、掛戻金の取立その他講務に関し、講元の有すると同一の権能を附与していたこと並びに本間鹿蔵は、前記いずれの辰巳講においても講成立の当初から、かかる世話人に選出されていたことが認められる。

(に)とすれば、第一審原告田村栄次郎の死亡により同原告が提起した本件掛戻債務の履行を求める本訴(右訴訟手続は、第一審訴訟代理人松木弘に対する同原告の訴訟委任が、上訴審における訴訟行為に及んでいなかつたため、第一審判決の送達と同時に中断したことは、当裁判所の職権調査の結果明かである)を講元と同一の権能を有し、従つて訴訟担当の資格を有するものと認むべき右本間鹿蔵が受継することについて、何等の違法は存しないというべきである。

(ほ)もつとも、冒頭において、既に認定したように右掛戻債務について、講元田村栄次郎と控訴人との間に(訴外会社をも加えて)これを目的として準消費貸借契約が締結され、この契約上の債務が、本訴の訴訟物であることは、明かであり、前掲甲第二号証の一ないし九によれば、右契約に際し、差し入れた連帯借用証書の名宛人が講元田村栄次郎であることが認められるけれども、上来説示したところから考えると、その債務は、どこまでも、控訴人が前記辰巳講に対し負担するものであつて、右講元個人に対するものではなく、借用証書の名宛人を右のように記載したのは、講元が自己の名をもつて、掛戻金の取立をなし得る権能を有することを明確にし、取立の便宜のためにとられた措置であると解するのが相当である。従つて、前記準消費貸借契約の結締によつて、本訴債権が、にわかに、田村栄次郎の個人財産に帰属し、同人の死亡によりその相続財産を構成するとみることはできない。さすれば、以上と異なる事実に立脚し、被控訴人の本訴受継の申立を不適法とする所論は採用に価しない。

(二)について、(一)において説明したところにより、控訴代理人が主張するような訴の変更のないことは、明かであるから、この点の主張も容れることができない。

(三)について、(一)の(ろ)で認定したように、本件辰巳講においては、講元を含めた講員全員が、講関係より生ずる権利、義務を、相互に、かつ、平等に有するものであつて、かの営業無尽におけるような、無尽企業者が一方の当事者となり、他方の当事者である無尽加入者との間に単一な契約関係に立つものとは趣きを異にするから、たとえ、辰巳講が数組に分れ、その講会が一個月に数回開かれて、落札が行われたからといつて、本件無尽講を営業無尽と同視することはできない。所論は到底採用し得ない。

(四)について、本件辰巳講は、(一)の(ろ)で認定したとおりであつて、組合類似の性格を有するものと解せられるのであるが、右講において、落札した講員に対し、借用証書を差し入れしめており、その掛戻債務を負担する関係において、消費貸借の色彩の強いことは疑いない。しかし、借用証書の差入も、既に(一)の(ほ)で説示したように、講元をして掛戻金の請求を容易ならしめる便宜に出でた措置である。そして、本件無尽講を、講の成立から、掛込、落札、掛戻の全過程にわたつて、その実態について究明してみると、かかる講関係から生ずる債権、債務については、利息制限法の適用がないものと判断するのが正当である。けだし、金銭消費貸借が利息制限法適用の対象となるのは、借主が貸主に対して極めて弱い立場にある通常の事態を主眼において、両者の関係を合理的に調整するためである。しかるに、本件におけるような無尽講は、古くからわが国の全域にわたつて、行われてきた相互協力的な金融手段であつて、講員は入札等の方法で、それぞれ自己の欲する時期に、その欲する金額で給付金を獲得する仕組になつており、法がこの講員相互の関係に立ち入つてまで、これを合理的に調整しなければならない理由と必要とを発見し得ないからである。であるから本件無尽講においては、所論のように捨金の制度があり(この点は、当事者間に争いがない)それが経済上利息と同様の効用をもたらすからといつて、右講契約を目して、利息制限法の適用を回避するための脱法行為であるとはいえない。また捨金の給付金に対する割合が所論のように月五分ないし一割で、年一二割に達するものがあるとするも、落札者が、この程度の犠牲を払うことは、無尽講の慣行として広く認められてきたところであつて、社会通念上認容し得る範囲を超えているとは思われず、この点を捉えて、本件講契約が、公序良俗に違反する無効なものとはなし得ない。

(五)について、本件無尽講と訴外会社との間の落札関係について、控訴人の主張するところからは、被控訴人の本訴請求を排斥するに足りない。その他控訴人のいう「貸付の不当」や「被控訴人の重過失」を肯定する証拠も存しない。かえつて、冒頭で認定した事実関係からみると、かかる主張は当らないから、これを採用しない。

(六)について、控訴人が、訴外会社の掛戻債務について、連帯責任を負担した(右債務を保証したものでないことは、既に認定した)当時未成年者であつたことは当事者間に争いがないが、未成年者であることを調査しない過失があつたことを窺える証拠は存しない。そればかりでなく、控訴人の主張するような事由では、右債務負担行為を公序良俗に反するものとにわかに断定し得ない。

(七)について、控訴人の右債務負担行為に対し、その親権者チヨの与えた同意が、所論のように、チヨの無経験、軽卒に基くことを肯認し得る証拠は存し得ない。なるほど、チヨは訴外会社の役員として同会社代表取締役三浦利市とともに、会社の経営に参加したが、その事業が結局失敗に終り、右三浦のため事業上はもとよりその他多大の迷惑を蒙つたことは、真正に成立したものと認める乙第五号証、成立に争いのない同第六号証、原審証人小林チヨの証言によつて推認され、チヨの事業経営上の能力は必ずしも練達とはいえないが、さりとて、本件無尽講関係において、特に被控訴人等が、チヨの無経験、無思慮を利用して右同意を与えしめたものとは到底考えられない。

叙上のように、控訴代理人が、当審において主張するところは、いずれも採用することができない。よつて当裁判所は、被控訴人の本件受継の申立を許容した上、原審の下した判断に以上の説明を加えて、被控訴人の請求を認容することとしたので、原判決の理由をここに引用する。

さすれば、これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 町田健次)

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